印税率とか、権利をあずけるとか、そんなお話

ELECTROCUTICA喜多嶋時透さんがTwitterやニコニコ生放送で、今の音楽の売り方についての悪知恵(※本人談)を披露していたのに影響を受けまして。(#ELECTROCUTICAさんは、自分もちょっと羨ましいなーと思う、今らしい制作体制で面白い作品を作っている制作集団なので要チェック)

せっかくだから自分も今回の曲集リリース前にあれこれ考えていた事を、もう少し深いところまでまとめてシェアしておいてみようと思います。多分全4、5回くらいです。かなーり長いので、読まれるかたは覚悟してください。

とりあえず第一回目は「印税率」とか「権利を預ける」とかそのあたりのお話を軽く。

◆ ◆ ◆

1.その印税率って、どうなの?

最近いろんなところでCDが一枚売れたときに作家にいくら入るか、みたいな数字も表に出てくるようになって、「えええ」みたいな声を目にする機会も増えたように思います。なるほどメジャーレーベルの標準的な数字とか、確かにかなり低い数字です。CD不況と言われる時代ですから、作家さんはどう見ても食べていけなそうだし。大丈夫か音楽業界。
…とはいえ、あの数字は、CD全盛の時代の背景を考えると、納得しようとすればできなくない数字、ではあると思っています。

音楽を売る手段がレコードやCDしかなかった頃、音楽のような当たり外れの大きいコンテンツを売るのはやたらリスクの大きいことだったはずです。制作にもたくさんの人の手やコストが必要で、たくさんのCDをプレスして、流通にのせて、販促活動などして…というのは、とても個人レベルでどうこうできる事でもなかったでしょう。
また、うまくいったときはいいですが、失敗した時に抱えるものの大きさもかなりのものになりかねません。それだけリスクが大きいことだからこそ、「企業」という形でリスクを負って商売する形でないと、失敗した時のダメージで大変なことになります。

なにかの商売をする場合、一番リスクをとっている人が、成功した時には一番大きなリターンを得るのが自然です。当時一番リスクをとっていた企業側の取り分が多くても、それはおかしなことではないですし、印税の率がびっくりするほど低いというのも、そこまで「異常」とはいいきれない部分もあった。そういう頃もあったはずです。

ただ、時代が下ってここ数年、DL配信のような売り方もはじまり、DTMなどの普及で個人レベルでもある程度高いクオリティの音源の制作ができるようになってきた昨今、その関係はだいぶ崩れてきてしまっているように思います。

特にDL配信が主流になると、複製や流通にかかるコストの部分がだいぶ小さくなってきます。そうすると、売る上で発生するリスクは、以前に比べればだいぶ小さくなる。もちろん、曲の制作にコストはかかりますし、そのコストが回収できないかもしれない、という危険性は常にあります。ですがその制作コストも、今や高価な機器のそろったスタジオ等を使ったりする必要も必ずしもない時代ですし、以前と比べたらそれなりに下がってきてはいるはずです。
としたら、今、作り手とレーベルの間で負っているリスクの割合は、以前とはだいぶ変わってきているはずです。リスクの割合が変わっているのですから、印税の率など、そのあたりの数字も見直されるべき時期なのは確かなんだろうと思います。

2.企業はダメ?

さてそんなこのご時世に、以前のままの数字でやっている企業の例など見てしまうと、「企業はダメだ!個人で売るべきなんだよ!」というような事を言いたくなったりするものですが、それはそれでちょっと極端な考え方です。

よく言われる「印税の率低い」ということですが、この数字は、交渉などでいくらでも変わりうるものです。今や、作り手側が印税交渉のテーブルで「じゃあ自分で売るからいいです」というカードを切れるようになってきているわけですから、印税交渉の場面では、多少なりとも強気にも出やすくなってきているはずだし、時には実際そのカードを切ってみたっていい。

「レーベル」「企業」というものの存在が悪いわけではなく、十分なメリット・価値を提示できないのに金額だけ多く持って行くようなことをする人・企業がダメだ、というだけです。それはもう、別にレコード会社だろうが、同人の作品制作の場だろうが何だろうが関係なくそういうものだと思います。

もし企業が、印税率を低く定めて、売り上げのなかから多くお金を持っていくというのなら、それに見合うだけのメリットを作り手に示しさえすればいい。絶対にたくさん売ってくれるとか、権利関係などの処理を全て請け負って、作り手が音楽に集中しやすいようにするとか。なんでもいいと思います。配信時代になっても、企業という形でなくてはできない事というのもたくさんあります。企業という形でリスクを負った方が実現しやすい事もあるでしょう。

作り手は、自分の大事な作品を預けるのですから、これからはそこをきちんと見極めて契約などをする心構えを持った方がいい。印税が安いと思うなら、上のような話を出すなどして、お互い納得いくまで交渉するべきだと思います。交渉をちゃんとするために、著作権や原盤権だとかいった音楽ビジネス上の知識などはやはり一通りは持っていた方がいいでしょう。
あとは自分が何がしたいのか。どういう活動をして、どうやって生きていきたいのか。そこで企業の力を借りる必要があるならば、借りるべきですし、不要であれば自分でなんとかする方向を模索すればいいですし。

レーベルに預けることで、作家個人で売る時よりも10倍の数売れるとしたら、印税の率の関係で最終的に作家側に入ってくる金額が全く同じであったとしても、10倍売った方が知名度の部分でより大きな価値が得られることになるでしょう。単純な金額の数字の大小だけでなく、「知名度」「権利処理などの手間」「いざというときに守ってくれる」など、得られる価値全体の大小を考えてみて、どうなのか。そのあたりを自身の活動スタイルなどとからめてしっかり考えてみる必要があると思います。

 

きっとこれから印税の数字に限らず、作家とレーベルの関係を見直し、いい形を目指して試行錯誤する人や企業も、もっともっとたくさん出てくるはずです。実際にすでに動き出している例もいくつもあります。それに今後そういうことがきちんとできない企業・レーベルには、きっといい作品も集まってこないでしょうから、そのような企業・レーベルが、長く続いていくとも思えません。
作り手とレーベルがいい関係で、いい音楽を作っていける、そういう場も環境もどんどんできてくるに違いないと思いますし、そういうことにとても期待しています。

いずれにしても、今は作り手側が選べる選択肢は本当に増えてきていますし、色々な新しいアイデアも生まれて、どんどんいい環境を選びやすい状況になってきていると思います。今のところそのどれが正解というわけでもないですし、この先何か正解があるのかどうかすらもわかりません。わかりませんが、一体自分がどれを選ぶのがいいのか、自分の頭で考えて、納得して、選び取っていく、そのことが、自身の道を切り開いていく事につながっていくと思います。

3.JASRAC信託?

JASRACに信託をするか否か、みたいな話も同じです。「JASRACは悪」なんてそんなわけはないですし。長らく音楽家を支えてきた存在ですから、信託するメリットだってちゃんとあります。
単純に、そこに自分の権利を預けることで、一体自分にどういうメリットとデメリットがあるのか。それをよく学んで、自分の得たいものと照らし合わせて、どうするのがベストなのかを、自分の頭できちんと考えることがとても大事だと思います。

たとえば自分の場合は、自分の作った曲のことくらいは自分でなんとかしたいと思っていますし、JASRACに関して言うなら、致命的に「スピード」が足りないと思っています。仮に自分の曲をカラオケ配信するために一部の権利を預けるとする。そうした場合、万が一、その預けた部分の権利を自分が持っていないと参加できないムーブメントが世間で起こったとしたら。その時権利を自分に戻そうとしても、最長1年以上の時間がかかる可能性がある。変化の早い今という時期だからこそ、それは、時と場合によっては致命的です。(※それ以前に、そもそもカラオケ周辺の話については、JASRACを通さないと支払えないとかいうカラオケ配信企業の仕組み自体を、カラオケで収益を得ている企業自身がなんとかしたほうが「筋が通っている」気がしますし)とするとJASRACに信託をするメリットなどは自分には特にありません。だから、多分、信託のようなことはしないでしょう。

でも、これはあくまで自分の立場での自分なりの考え方ですし、立場やスタイルが違えばまた違う結論が出てくるはずです。

 

とにもかくにも今、一番大事なことは「自分の頭で考えて、チャレンジする」ということだと思います。メジャーを目指すことはきっと必ずしも正解ではないし、個人でやることが正解かどうかなんて誰にもわかりません。

「誰かがそう言ったからやる」「誰かの言われるままになる」ではなく、自分の頭で考えて、納得して、試す。試したら、結果を吟味して、次の手を考え、またチャレンジする。チャレンジしていく上で何か納得いかないことがあったら、いい方向に変えようとしてみる。時には恐れず交渉のテーブルにつく。その上で必要になる「著作権」などの法的な事もできるだけちゃんと知っておく。それが今、一番大事なことなんじゃないかな、と思います。

ロックにしてもジャズにしても何にしても、これまで名を残した人は「挑んで、何かを変えた」人が多いはずです。変えていく事を恐れていたら、何も面白い事なんて起きないし、面白い音楽なんでできないんじゃないかな。そう、思います。

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