「CDの値段」「音楽の質」「ランキング」と「数字」の話

前回の続きです。
今回は「CDにつけられた値段」と「音楽の質や価値」、「ランキング」というあたりについて書いてみようと思います。だいたいみんな分かっていることだとは思うので、わりと余計なお世話な内容ですがそのあたりはご勘弁を。

1.モノの「値段」と「価値」の一般論

さて、唐突ですが、あなたの目の前に、新鮮でおいしそうなキュウリが一本あって、それに「30円」という値札がついています。
買いますか?

……って、んなこといきなりきかれても意味が分からないですねそうですね。
でも、すみません、とりあえず考えてみてください。

 

多分、キュウリが大好物だとか、今無性にキュウリ食べたい人がいたら、その人は「断然買う」と思うでしょうし、キュウリ嫌いだったら「死んでもいらない」と思うでしょう。「まあ、買ってもいいかな」と思う人もいるでしょうし、「んー、別にいらないかなー」と思う人もいるでしょう。

じゃあ、買おうと思った人は、なんでそれを「買おう」と思ったのでしょうか。

それは多分、「新鮮でおいしそうなキュウリ一本」にあなたが感じた「価値」というのが、「30円」という値段分の価値よりも高いと感じたから、ということだと思います。
普段あまりはっきりと意識してなかったりしますが、私たちはモノを買う時、「そのモノが自分にとってどれくらいの価値だと思うか」と「ついてる値段」を比べています。そして、自分の感じた「価値」が「値段」よりも上回ったなら、「買う」ということを選びます。

2.CDという商品の「価値」と「値段」

さて、ではCDというモノについての話です。CDを買うとき、わたしたちの中でその「価値」をどういうふうに判断して、「買おう」と思っているでしょうか。

一般にはCDという商品は、「音楽」を運ぶものだ、と思われているかもしれません。ですが、実際にはその「CDという商品」がもつ「価値」には、実に色んなものが含まれています。たとえば、

  • 収録された音楽そのもののうみだす価値(曲がよい、歌詞がよい、演奏がよい、とか)
  • 実演している人のうみだす価値(タレント性、かっこいい、かわいい、話題の人、応援したい人、好きな人、とか)
  • パッケージの価値(パッケージがきれい、家に置きたい、とか)
  • ブックレットの価値(見たい写真がのってる、いいデザイン、とか)
  • 背景、コンテクストによる価値(話題の曲だ、大好きな○○というアニメの主題歌だ、PVが面白かった、とか)
  • 話題性など(他の人より早く聴ける、他の人と話題を共有できる、とか)
  • 便利さなど、モノとしての価値(CDという形であることでレコードより扱いやすい、貸しやすい、所有感が満たされる、とか)

こういった色々な要素の合計が「CDという商品」の価値です。
で、たとえばとあるCDが2000円だとした場合、AさんBさんがそれを買うかどうかは、感じたこの全ての価値の合計によって決まります。合計して、それが2000円以上の価値があると思えて、かつ、買える金銭的余裕があれば、「購入しよう」となります。

というわけで、「CDという商品を買うかどうか」というのは、「音楽だけ」に対する価値判断ではなくて、「音楽と、それ以外の何か」をひっくるめた価値判断なのですね。

アイドルもののように、可愛い女の子・イケメンが参加しているCD、アニメソングやVOCALOIDもののように、人や背景的な部分でわかりやすい価値のあるものは、「音楽以外」のところで多くの人にとって付加価値が高く、「お値段以上の価値」と判断されやすくなります。ですから、あとはその情報を、広報力や知名度、話題性などの力で、購入見込みのあるかたの所へ適切にとどければ、購入数はきっと増えていくはずです。昨年のCDの売り上げ枚数の上位が嵐とAKB48で占められていたりするのも、さもありなん、というところです。

もしあなたがCDという商品をたくさん売りたいとするならば、仮にCDの値段を2000円と定めるとして、やるべき事はできるだけ多くの人に、2000円以上の価値のあるものだと思っていただけるように、上記のそれぞれの部分の価値を高めるようなことをひたすらやること。そして、あとは適切にターゲットとなる相手に宣伝などしていけばいいはずです。

その際、ちょっと考えてみるとわかることなのですが、商品としてその「価値」を仕込みやすいのはどちらかというと「音楽そのもの」以外の部分のほうだったりします。なんせ、音楽は「好み」の部分がすごく大きくて、戦略的に多くの人に受け入れられるようにするのはなかなかもって難しい。「いい音楽です」よりも「かわいい女の子の写真入ってます」「ジャケット凝ってます」「有名なあの人が参加してます」「○○の主題歌です」みたいなところのほうが、多くの人に「価値がある」ということを納得させやすいし、その売れ行きなども想像しやすい。
ですから、商品としてはアイドルものが強いのなんて当然ですし、そこに握手券とか足して、買うことで女の子に対する支持を表明できるとか…要するに、AKB48スゲー。

と、こんな事を書いているとCDというものにちょっと否定的に思われるかもしれませんが、たとえば「タレント性」や「かわいさ」など、音楽以外の要素の価値でもってCDという商品の商品価値を高めて売るのは、何一つ間違ったことではないと思っています。価値のないモノを無理矢理買わされていたりしたらそれは詐欺だったり犯罪的なものの匂いがしますが、買う側だって当然バカじゃない。ちゃんとその価値を納得して買っているはずだし、2000円なら2000円を出す価値があると思わせることができているから買っていただけるわけで、それは商売として至極真っ当です。CDという商品を売ると言う事が目的であれば、たとえばAKB48のやり方から学べることは、本当にものすごくたくさんあると思います。

3.CDという商品の「売り上げ数ランキング」と「音楽の質」

さて、ここまでの話でいい加減お気づきのかたもいるでしょうが、「CDという商品」の価値の中においては、時に「音楽の質」みたいなものって、必ずしも大事ではなかったりします。もちろん、音楽のよさだけで売れていくすばらしい作品もあります。ですが、同時にそれ以外の価値のところで数を売っているものも非常にたくさんあります。

「CDの枚数の売り上げランキング」を見ても、それはあくまでそれぞれの「CDという商品」の価値が妥当だと思った人の数が書いてあるだけで、「音楽の質」みたいなものを必ずしも反映しているものではありません。どうしても、CDというのは音楽を記録した盤であって、CDの売り上げというのは、音楽の質の高さのようなものの上下を表すと思いたくなるのですが、そうではない。そこだけは誤解しないようにしておいたほうがいいのかな、と思います。

というわけで、もしもあなたが「いい音楽」を探したいと思っているのならば、「売り上げ枚数」のような数字は時々役に立ちませんし、もしもあなたが「いい音楽」を作りたいと思っているのならば、売り上げ数/ランキング、という指標を参考にしても、必ずしもあなたの音楽が「いい音楽だと思われているか」は分からないかもしれません。

ランキングというものがあると、やはり作る側の人間としては、上位を目指そうとしたくなるものです。ですが、それが本当に意味のあることなのか、大事なことなのかというのは、それぞれの立場でわりと真剣に考えておいたほうがいいことなのかもしれないと思います。また、ランキング上位に入らないからといって、自分の作る音楽はダメだセンスない、とか、自分の好きになる音楽はダメだから俺センスない、とか、変に卑屈になったりする必要もないと思います。それは、単に指標とする数字が間違っているだけかもしれない。

世の中には色んな数字があって、数字というのは非常に分かりやすいものなので、ついついその数字に動揺したり、数字ばかり追いかけるようになってしまったりしてしまいます。でも実際は、あてにならない数字もたくさんあるし、自分のやりたいこととまったく関係のない、追い求める必要のない数字も非常に多いです。

創作活動をしていく上で、数字を追求することは、とても大切なことではありますが、その前にまず、「どの数字が大事か?」ということだけは、ちゃんと見極めておいたほうがいい。どの数字を追い求めるかを誤ると、本当にいらないストレスを抱えたり、的外れな努力をしてしまうことになりますから。

たとえば自分の場合ですと、自分は音楽バカですから、「いい音楽」を作りたい。それが一番大事だと思っています。ただ、若干嗜好が独特なので、一般に広く受け入れられるものはあまり作れません。そこは自覚しているつもりです。
だから、「どれだけの数の人が聴いてくれたか」という「広さ」よりは、「聴いてくれた人のうちどれだけの人が気に入ってくれたか、どこまで心の深いところに届いたか」という「深さ」のところを知りたいと思っていますし、そこを重視したいと思っています。だって、「広さ」のほうは、本当にいいものを作り続けることができていれば、少しずつでも広がっていくでしょうし、後からついてきてくれるでしょうから。

そんなわけで、ニコニコ動画などに動画をアップする時に主に気にしているのは「再生数に対するマイリス率」と「いただいたコメントの中身」ということにしています。
楽曲集リリースの時も、「CDという商品」にかかる価値ではなくて、曲のみでできるだけ判断いただきたいので、DL配信で、価格も自由に、ということを選んでみたりしました。
ニコ動界隈を活動拠点としつつも、同人イベント等にも出ず、あまり人と仲良くなったりしないとか、コラボレーション的な事をしないことも、数字をできるだけ音楽起源のものでキープしたい、そういったことを意識して、わりと意図してやっている部分もあります(いや、それ以前にわりと人見知りでチキンなだけだけど(笑。
これで、目指す数字が出なくなるようなら、やはり自分は音楽を作る才がないのだろうとあきらめもつきます。もし自分の作るものが面白くなくなってきたら、その時にはそう数字が教えてくれるでしょう。

 

CDを売りたいのか、人気者になりたいのか、お金がとにかくほしいのか、はたまたいい音楽を作りたいのか。何を目指しているかによって、どんな数字を見て、なにを追究していく必要があるのかは全く変わってきます。
数字を見る時には、どの数字が一体自分にとって大事なのか。どの数字が自分の求めるものを正しく表しているのか。そういうところにも、もうちょっとだけしっかりと意識を向けてみると、音楽の世界というのもまた少し、違った見え方をしてくるかもしれません。
数字は振り回されるものではなくて、情報を正しく知るための大事な相棒です。大事な相棒なのですから、やはりそれは丁寧に選ばないと、後で痛い目を見ることもある…かもしれないと思います。

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